『レールに乗せろ/Riding the Rail』 ダンジョン誌2007年2月号 Christopher Wissel

 ブレランド郊外を進むライトニング・レイルの長距離列車。それが運ぶゼンドリック大陸由来の大モノリスを、高度に訓練された犯罪結社の攻撃部隊が奪取しようとしている。何も知らないPCたちは、侵略者の奇襲を撃退することができるのだろうか。それとも、彼らは縛鎖に掛けられて旅を終えるのだろうか?

 『レールに乗せろ』は5レベル・キャラクターのグループに向いたエベロン冒険だ。冒険は進行する長距離列車上で迅速に展開され、ヒット・ポイントや呪文を回復する機会はないだろう。
 

冒険の背景/Adventure Background

 ゼンドリックは40000年前に失われた文明への手がかりを伝える神秘的な廃墟で満たされた大陸だ。〈最終戦争〉が終わった今、失われた大陸の経済資源がついに利用され始めている。賢者、学者、商社らは、考古学という新規事業に先鞭を付けようと一斉に走り出した。かつては脱走兵や戦争狂と見下されていた冒険者は、今やこの失われた世界の強烈な秘密を探り出し、商業化するための最も貴重な資源となっている。

 この熱狂に続いてブラックマーケットがやってきた。手段を問わない盗賊や不逞な商人が手早く富を手にしようと争った。これらのブラックマーケットのうち最大のものは“ワンドくすねTai/ピルファード・ワンド/Pilfered Wand”と呼ばれる強力なカルテルに運営されていた。これら古代のレリック/遺物を専門とするローグとアサシンたちは、余人の目に触れることはない場所から暗黒の目的のためにゼンドリックの秘密を求める雇用主に雇われていた。

 最近、高額な取引で巨大な石柱が神秘の大陸から運ばれてきた。単一の花崗岩から切り出されたそれは長さ100フィートを超え、全面に奇妙なルーンと秘術のシンボルが刻印されていた。これはリランダー氏族が購入したもので、そのシンボルは強力な気象制御魔法に関連していると信じられており、アンデールまでライトニング・レイルで輸送する予定だった。不幸なことは、シャーンを拠点としている“ワンドくすねTai”のスパイがこの取引に気づき、石柱を横取りしようと巧妙な犯罪を仕組んだことだ。

 給仕や客車警備員、高級客車の乗客として変装した盗賊が乗り込んだ。彼らの計画は束縛しているエレメンタルを魅了して客車運行を支配し、同時に第2班が屋根上にビーコンを設置してブレランドの荒れ地に向かうように進路を変更させるというものだ。首尾が上々に進めば、乗っ取った客車は数マイル北にある、人里離れた箱型峡谷に迂回させられる。そこで石柱は降ろされ、乗客は奴隷として売られる算段だった。
 

冒険の要約/Adventure Synopsis

 PCはシャーン発コーヴェア内陸部行きの、ゼンドリックの石柱を載せたライトニング・レイルに乗り合わせる。そこで彼女らは武装した強盗の襲撃を受ける。PCは盗賊を打ち倒しつつ乗員車両を目指すが、そこで列車全体がすでに“ワンドくすねTai”のアーティフィサーの制御下に墜ちていることを知る。

 その時点で、彼女らは列車の誘導信号がすでに切り替えられていること、このままだとギャング団の恐るべき頭目であるヴァイカーリの元に到着するまで停止しないことを知る。屋根上での戦闘を介し、PCは護衛たちを蹴散らし、信号ビーコンを除去し、列車を停止させなくてはならない。
 

冒険フック/Adventure Hooks

 この冒険はPCがシャーン発の客車に乗車していることを前提としているが、ライトニング・レイルで結ばれた任意の2駅間であるならどこにでも挿入することが出来る。PCを客車に乗せる必要性について、以下に利用可能なフックを示す:

  • PCはご当地の秘術知識に関連した物品を鑑定するため、はるばるアンデールを縦断してきた。モルグレイヴ大学の学者がそれに興味津々で、彼はアルカニクス研究所に持ち込む旅費を提供するほど熱心だった。浮遊学院の魔法職人は来週の学会に合わせて大わらわなため、図書館は一般大衆に開放されていた。
  • 驚くべきことに、スレインの“炎の護り手”ジャエラ・ダランはフレイムキープに計画されている新たな建築物群の設計を公募した。通常これは外部に知らされるものではなく、枢機卿会議は5日以内に実用設計の提出を求めた。これは実質的にスレイン国外の設計者を埒外に置く出来レースだった。しかしシャーンの果敢な建築ギルドが参加を表明した。しかしながら彼らとても設計を練り上げる時間が必要だった。彼らは提出者としてPCを先発させ、スクライングを駆使し、期限までに枢機卿の間に直接完成品をテレポートさせる計画を立てた。

 

ライトニング・レイル/The Lightning Rail

 その発明以来幾年にも渡り、五つ国の各地を繋ぐレール上を無数の旅客車両と貨物車両が快適に行き来した。客車は安全な時速30マイルで移動し、運賃は二等客車で1マイルあたり5spだ。

 一般に、ライトニング・レイルの車両は10両編成だが、この車両に限っては巨大なゼンドリックの石柱を運搬するため削減されている。PCが乗り合わせた車両は9両編成で、先頭の乗員車が牽引し、続いて物品供給車が2両、寝台車両が2両、二等客車が1両、一等客車が1両、食堂車が1両、最後はオリエン氏族が詰めている車掌車だ。PCのチケットは二等客車のもので、これは食堂車への入場券を兼ねる。彼女らが一等客車の空きについて質問するなら満席であると告げられる。

 ライトニング・レイルにはいくつかの基本原則がある。第一は、線路は導線石と呼ばれる光る魔法装置で作られ、それが客車を適切な距離で整列進行させる。個々の客車の底にも同様の石が埋め込まれ、地上数フィートの高度を維持したまま摩擦をなくして浮揚走行する。

 車両の乗員車には強力なエア・エレメンタルが拘束され、乗り物を経路に沿って進行させている。ライトニング・レイルはドラゴンマーク・アイテムにより制御され、エレメンタルは指示に従い加減速を行う。これらのアイテムは一般にオリエン氏族のドラゴンマーク・メンバーに同調しており他者には使いこなせないが、術者が拘束用ドラゴンシャードに触れてチャーム・モンスター、ドミネイト・モンスター、風領域のクレリックによるコマンド等を発動するなら制御を奪われる可能性はある。また魔法的手段に依らなくても、話者がエレメンタルに対して直接語り掛けて所定の行動を採らせることは、〈交渉〉や〈威圧〉を成功させることで可能だ。

 全体的な安定性を保つため、それぞれの車両の形態と寸法は統一されている。内部はおおよそ幅25フィート、長さ60フィート、高さ15フィートだ。それぞれの車両は幅5フィートのミスラル製接続ポイントが設けられ、同じ素材の頑丈なボルトと鎖で接続されている。車両を分離するには3ラウンドを必要とする。最初の2ラウンドは鎖を除去することに費やされる(これは自動的に成功する)。第3ラウンドに、車両接続部に使われているボルトを引き抜くため、難易度20の【筋力】判定が必要になる。もし成功したなら、分離された車両は毎ラウンド10フィートずつ減速し *1、やがて停車する。客車の窓はすべてガラスが嵌まっているが、貨物車はむき出しの吹きさらしだ。
 

配置/Settling ㏌

 PCはエリア1と記される二等車両に配置される。シャーンのゲートウェイ地区で客車に乗り込む際、PCはフレッシュ・ゴーレムが操作する魔法的滑車装置を使い、巨大な石柱が積載されていることに気づく。もし彼女らが出発前に調査を求めるなら、彼女らはアイテムから強力な召喚術・変成術のオーラが放射されていることに気づく。

 石柱は客車中で話題になっており、好奇心旺盛なPCは難易度10の〈情報収集〉判定に成功することで買手、目的地、機能についての噂を入手することが出来る *2

 すべての二等客車チケットはエリア2の食堂車に通行することが出来る。エリア6に通じる後方の扉は乗客から保護するためアーケイン・ロック呪文で施錠されている(硬度5;hp15;破壊難易度28)。

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1.二等客車/Passenger Cart(遭遇レベル6)

 二等客車は通路で区分けされた座席で構成されている。座席の天井には作り付けの寝台区画が設けられている。足元には身の回りの物を入れるための小さな収納が用意されている。

 二等客車にはPCの他に12人の乗客がいる。8人は1レベル・コモナーであり、4人は1レベル・エキスパートだ。彼らは1人も冒険中に戦闘には加わらず、PCが話しかけない限り彼らも交流を持とうとはしない。

 旅の第一夜の夜明け前に“ワンドくすねTai”は襲撃を敢行する。覚醒しているPCはエリア2に続く扉が開き、人型生物が3体の中型の灰色の渦を押し込んだことに気づく。その人物は角のあるちんぴら2人を従えており、彼らは絹製のロープを携えていた。 *3
 

クリーチャー/Creatures

 リアフリーン・シスリールは大物になろうと自身のユアンティ集団を出奔した“ワンドくすねTai”の新人構成員だ。彼は入Taiするため、自身の能力は奇妙な異国の動物を調教することであると豪語していた。実際のところ、彼には調教技術はない。彼は緊張して怖気づく心をおおげさな虚勢で隠しているため、任務中ずっと汗だくだ。

 ユアンティとティーフリングのちんぴらは“生ける呪文”を操って犠牲者たちを丸飲みさせ、隠密裏に無力化しようとする。彼らはその後車内を移動し、眠れる乗客を拘束し、抵抗する者を制圧するか抹殺して回る。

 睡眠中のPCは難易度10の〈聞き耳〉判定に成功することで覚醒することが出来るが、そうでないなら二等客車の前方からやってくる“生ける呪文”の攻撃を受けるまで待つことになる。

  • リアフリーン・シスリール/Reafrin Sesliel、男性、ユアンティ・ピュアブラッド:hp18『モンスター・マニュアルv3.5』
  • ティーフリングのちんぴら/Tiefling Thug(2体):hp9『モンスター・マニュアルv3.5』
  • “生ける呪文”うんざり眠り/Sickening Sleep (living spell)(3体):脅威度2;hp5『モンスター・マニュアル3』

 

戦略/Tactics

 武装した抵抗者に遭遇したなら、2人のちんぴらは即座に攻撃する。リアフリーンはPCに対してダークネスを使用し、彼女らを“生ける呪文”に飛び込ませようとする。彼は最も近くにいるクリーチャーを攻撃する。
 

展開/Development

 もし双方のちんぴらが無力化され、リアフリーンが負傷するなら、彼は降伏して可能な限り長い間PCを足止めしようとする。

2.食堂車/The Dining Area(遭遇レベル3)

 二等客車は通路で区分けされた座席で構成されている。座席の天井には作り付けの寝台区画が設けられている。足元には身の回りの物を入れるための小さな収納が用意されている。

*1:時速30マイル巡航だからいつ止まるんだろな (;^ω^)

*2:リランダー氏族、アンデール、強力な気象制御魔法に関連。

*3:シャーン発ブレランド・アンデール線。シャーンから首都ロートまでの行程は7時間であることから、シャーンを深夜に発し、朝のロートに到着する便とするのが良いだろう。