“陽を待つ都市” The City That Waits

 レナイス世界にモイルと呼ばれる都市があった。モイルはその世界の地面に作られた。そのためすべての標準的都市がそうであるように、そこは毎日陽が昇った。陽の光は人を前向きにさせるが、不幸なことに、市民を闇の欲求から切り離すには不足していた:モイル人は悪しき性質を持っており、彼らの信仰はオルクスとして知られている強力なタナーリ君主に捧げられていた。

 ありがちな話として、モイルの市民は贔屓しているこの混沌の君主からほんのわずかな恩典しか得られなかった。時が経るにつれ、モイル人の信仰心はさほど血に飢えていない神々へと移っていった。

 予想されたとおり、オルクスは激怒した。恐ろしい、また思いがけない復讐として、彼はモイルに対して穏やかともいえる呪いをかけた:住民は陽が昇るまでの間、魔法の眠りに陥るというものだ。そうした後オルクスは都市を本来の場所から、自身が支配する悪夢のような無明の疑似次元界に物理的に移動させた。そこでは陽は決して昇らず、高い塔に陽が差すことはなかった。この行為の仕上げとして、オルクスは新たに疑似次元界を“陽を待つ都市”と命名した。

 長い間に、まどろむモイル人は暗い眠りの中、死への不安と危険な夢に取り巻かれつつ死んだ。しかしオルクスは都市を再訪しなかった。彼はドラウの復讐の女神キアランサリーに抹殺されてしまったからだ。よってここは人間と神格の知識の双方から忘れられてしまった。

 数世紀が過ぎた。その間、アサーラックの思いは何度も何度も“陽を待つ都市”に舞い戻った。彼はすでにこの場所を発見しており、呼吸する者が誰もいないことまで確認済みだった。創造者がいなくなり住民も死んだ。そこでアサーラックはここを自分自身のものと宣言した。

 彼が期待したとおりであれば、この都市は彼の邪悪な計画の完璧な架け橋となる。その唯一無二の性質は、負のエネルギー界に浮かぶ彼の真なる根拠地の錨として機能するだろう。彼は不安の中で死んだ者たち(Maps&Monsters のモイルのゾンビ参照)を、彼の“終末の要塞”を作るアンデッド労働力として利用した。ほとんどのモイル人は建築に駆り出されることになった。それは膨大な人数だった。そのため都市に残ったモイル人はほとんどいなくなった。

 疑似次元界に移送されたとき、都市の構造は湾曲された;都市の細い塔は巨大な穴の深淵から屹立するかのように見える。穴の側面は蠢く黒い霧で縁取られており、また闇を見通すことができるのであれば、穴の底にも同じような霧があるのがわかる。実際、塔は魔法により不安定な霧の上にそびえている。

 蠢く黒い霧は、“陽を待つ都市”と負のエネルギー界との不明瞭な一方通行の境界だ。黒い霧に踏み込むことは賭けになる。塔の高さに等しい距離を落下するか、負のエネルギー界に落ち込んでその効果を即座に受けてしまうからだ(効果については略)。

 上空には稲妻をまとった雲があり、飛行で侵入したなら落雷を受け、セーヴなしの10d6ポイントのダメージを受ける(雲の中にいる間は毎ラウンド45%の確率)。上空の雲は“陽を待つ都市”の側面と底の黒い霧と同様に薄くなり、そのまま進むと同様に負のエネルギー界に突っ込むことになる。

 都市に憑りついている悪の残骸の中で、最悪なのはヴェステジだ(Maps&Monsters参照)。ヴェステジは常に“陽を待つ都市”の部屋々々、橋梁、開けた場所を徘徊し、その恨みをぶつける相手を探している。PCが都市に4時間留まる毎に、20%の確率でヴェステジに発見される。PCがヴェスティジに発見されたなら、モンスターの外観を決定するあたっては第15.5区画を参照しろ。このクリーチャーの能力と憎悪に対峙したPCにできる最善の策は、遭遇する端から逃げだすことだ;アサーラックでさえ、この物凄いモンスターを相手取ることは避けた(しかしアサーラックはヴェステジを、彼の謎掛けの1つに対する守護者として利用することにした)。もしPCがそれとの間に十分な距離(1000フィート以上)を取ることができたなら、クリーチャーは追跡を断念する(今のところは)。

 “陽を待つ都市”は負のエネルギー界に近いため、浸闇の影響は“恐怖の墓所”や“暗黒学園”よりいっそう顕著だ。その影響は以前の浸闇効果の説明を更新する。“陽を待つ都市”での影響は以下のとおりだ:

  • アンデッド退散について、「アンデッド退散表」を4段階高いものとして扱う。
  • 都市の中で発動した死霊術系統の呪文は、発動時間が4単位減少する(最低でも1)。
  • ラットより大きなサイズの生きているクリーチャーが殺されたなら、1d3ラウンド後に80%の確率で、元クリーチャーと同じヒット・ダイスのアンデッド・ゾンビとして動き出す。
  • 回復呪文は“陽を待つ都市”の境界内では75%(切捨)しか効果を表さない。例えば、通常は20ポイントのダメージを治癒する回復呪文は、ここではたった15ポイントしか治癒しない。
  • 都市の中は超自然的に寒い。PCは寒冷地に適した衣類(毛皮、手袋、帽子等)を身につけていない場合、ここに6時間留まる毎に-4ペナルティを受けて【耐】判定を行なわなくてはならない。失敗することでキャラクターのヒット・ポイントは1犠牲になる。(もし君のキャンペーンが、赤外線を感知するインフラビジョンを採用しているなら、インフラビジョンはここではほとんど機能しない;ここはしびれるほど寒い環境であり、クリーチャーの大部分は赤外線を発さないアンデッドだからだ)。

 モイルの元々の特性として、重力の他に前後左右上下の方位が残されている。そのため、PCは疑似次元界の中を東西南北で記述することが可能だ。

※訳注
 モイル市の属していたレナイス/Ranais世界は前年(1997)に公開された「TSR2631 Dead Gods」に登場する世界である。このシナリオはキアランサリーに滅ぼされるもテネブロウスとして生き延びたオルクスが復活する過程を追うものであり(3版開始時にオルクスが死んでいた/復活したと設定されたのはこれに基づく)、作中モイル市は疑似次元界に放逐された都市として登場している。同作でモイル市はオルクスの悪逆を示す単なる通過点に過ぎなかったが(登場数ページ)、今作において背景を掘り下げたものと考えられる。


※自己満足のための訳注 (ΦωΦ)
 1973年に英国BBC放送が、「San Francisco: The City That Waits to Die/サンフランシスコ:死を待つ都市/ザ・シティ・ザット・ウェイツ・トゥ・ダイ」という大地震とサンフランシスコ市の対応に関わるドキュメンタリー番組を作った。モイルに対してオルクスが送った名称「The City That Waits」はこのもじりではないかと思う。そこであえて省略されたと推測する「to Day」を訳語に付加して、“(陽を)待つ都市/(ひを)まつとし/ザ・シティ・ザット・ウェイツ(・トゥ・デイ)”とした。

 ちなみに作者コーデルとサンフランシスコ市には一切かかわりがない(ぽい)。