二代目アサーラック:2008『Prisoner of the Castle Perilous』より

 WEBダンジョン153号に発表されたアサーラック・サーガ(そんなものはない)の一編。
 負の次元界に浮かぶモイルの塔に居を構えたリッチ・アサーラックの陰謀を暴く冒険。


 なお、フォーゴトン・レルム世界北部のヴァサに“魔王”ゼンギーの居城として同名の“危険の城”が存在するが、アサーラックのそれとは無関係(か?)。



 この4か月後には3版系列は終了する。


 以下ネタバレ。

















 悪意に満ちたリッチは自身に猛悪な形質転換を試みていた。それにより、彼は自身を幽閉している“危険の城”から逃れ去ることができるだろう。彼の計画のカギは、彼の領土にして牢獄である負のエネルギー界に投獄された聖者を救出しようと試みる、勇敢なる冒険者を誘い出す点にある。救出を試みた多くの英雄が既に贄となり、究極の対価を支払っていた。彼の究極の目的はまもなく果たされようとしていた。あなたの冒険者グループは間に合うだろうか? あるいは、彼をデミリッチに形質転換する贄となってしまうのだろうか?

 『“危険の城”の囚人』は18レベルPC4人用の、次元界のうち負のエネルギー界に基づいたキャンペーンに適した冒険だ。PCは負のエネルギー界に散らばる“危険の城”のひとつ ‐ モイルの“引き裂かれた塔” ‐ に乗り込み、強力なリッチの企みを撃退しなくてはならない。次元界自体と塔の内外には守護者や罠が潜んでいる。これはあなたのプレイヤーが決して忘れることの出来ない、非常に挑戦的な探索行だ。


冒険の背景 Adventure Background

 何年も前、死霊国建国という青雲の志に燃えるウィザード、アサーラックが、信仰の階梯を登るパラディン、ペンティヴァル卿と衝突した。剛力と魔力の勝負の結果、アサーラックは敗れ、殺される前に敵から逃げ出した。長い年月が過ぎた。アサーラックは彼の計画を挫かんとしたペンティヴァル卿について思い返していた。アサーラックは彼の死霊国建国の目的を達し、また肉体は強力な、後世の人々を大いに震撼させる恐るべきデミリッチに形質転換していた。

 しかしながら、“恐怖の墓所”を築く前の私怨を晴らすため、アサーラックはペンティヴァル卿に復讐を開始した。晩年のペンティヴァル卿は、ペイロア教会において聖者となっていた。一部では、彼は英雄神の地位に定められていると囁かれていた。だが彼はある日突然失踪した。当惑する信者たちを置き残し、突然に消え失せてしまったのだ。最も強力な占術とミラクルですら、彼を連れ帰ることも、彼がどこに去ったかについて示すこともできなかった。

 アサーラックは多年に渡って復讐計画を練り上げ、細心の注意を払って計画の孔という孔を潰していった。彼は負のエネルギー界を広範に調査した結果、無明の疑似次元界に捕らわれたモイルという崩壊した廃都に行きついた。そこで彼は多くの秘密と失われた秘術工学の粋を発見した。アサーラックは強力な魔法を行使し、閉じ込められた都市から塔を1つ引きちぎり、それを負のエネルギー界に押し出した。デミリッチは漂流物を「モイルの“引き裂かれた塔”」と命名し、異次元監獄として活用した。後に賢者と専門家はそれを“危険の城”と呼んだ。アサーラックは聖ペンティヴァルを捕らえた後、“危険の城”で旧敵の老パラディンに対して一連の実験と様々な拷問を行う用意をした。彼は準備万端整った時点で計画を発動し、聖ペンティヴァルを捕らえると、彼をモイルの“引き裂かれた塔”の炉心に拘束した。

 アサーラックは間もなく敵への拷問に飽き、他の陰謀を計画するようになった。デミリッチは彼の物理的形態のシミュレイクラムを作り、投獄した聖者の管理者として塔に配置した。しかしアサーラックは魔力に対する渇望の末、最終的に彼は手を出してはならない相手に手を出すと、強力な勇者に打ち負かされてしまった。

 何年も時が過ぎ去り、自身こそが主であると自覚したアサーラックのシミュレイクラムは、自身の装置について驚異的な発見をした:モイルの“引き裂かれた塔”に収納されていた古代の秘術装置は、生きている存在を素材として魂を吸い上げ、自身の魂を再設計することができる - 創造者の影ではなく、本物の生物になれるのだ。唯一の問題は、ザ・ソウル・マシンが変成を行なうには膨大な量の魂が必要だということだ。ザ・ソウル・マシンを通すことで、魂の持つ力は大幅に減衰した。アサーラックのシミュレイクラムが懸命に塔に残る機械と文書を研究しても、彼は魂を吸い上げる過程でその力を維持する方法が発見できなかった。そのため工程は遅々として進まず、幾年もかかることになったが、彼は最終的に自身を再設計することができた。シミュレイクラムは本物のクリーチャーに、以前の主人と同様な強力なリッチとなり、彼はほぼすべてについて元祖と同じ方法論と計画を維持した。それには文字通りに何百という生きている存在が費やされたが。

 新たに形質転換されたアサーラックは元祖の目的を達成したため、モイルの“引き裂かれた塔”を去ろうと試みたが、シミュレイクラムとしての彼自身を生み出した強力な呪文が彼と塔を結びつけていることに気付いた。

 数年を経て、アサーラックはザ・ソウル・マシンについて他の使用方法を学んだ。彼は素材として蓄えられた未精錬の魂を使い、様々な生命を作り出し、改変することができることを知った。その目的は塔ともその機能とも無関係だった。十分な魂があれば、それは自分自身を前任者のように強力なデミリッチに形質転換することができるだろう。その工程には何年も必要だ。しかし、問題が無い限り、アサーラックは忍耐強いクリーチャーだ。

 そうして塔により多くのクリーチャーを引き寄せるべく、狡猾な計画が練られた - 冒険者や未だに聖ペンティヴァルを捜索している愚か者どもがモイルの“引き裂かれた塔”にやって来て、アサーラックの敷いた蜘蛛の巣に掛かり、彼の昇格計画に供するべく魂を収穫できるだろう。新たなるアサーラックは、本物の“貪る者”アサーラックの物理的顕現であると吹聴し、アンデッドと生きている教徒を召集すると物質界にちょっとしたうわさを流し始めた。この計画は驚くほどよく機能した。何年かを経た現在、二代目アサーラックはまもなくデミリッチに昇格しようとしていた。しかしながら、最近になって新たな犠牲者として塔に入った小集団のひとりがリッチの手から逃れ、アサーラックの猛悪な計画の情報を外部にもたらした。教徒の一群がその者を捕らえるか黙らせるために派遣されたが、それはリッチの手に負える範囲を超えた新たなる勇者の一隊の興味をも惹きつけるという、望まぬ結果をもたらすかもしれない。


冒険の要約 Adventure Synopsis

 冒険の開始時、PCは地元のペイロア教会に呼び出されてその身廊にいる。そこに負傷して取り乱したウィザードが駆け込んでくる。彼はアンデッドとヒューマンの崇拝者でいっぱいの、アサーラックの恐るべき塔から逃れてきたと主張する。この塔は生きている者から魂を吸い取る巨大な機械そのもので、アサーラックが悪しき目的のためにこれを操っていると告げる。彼が事情説明をしている間に、逃走したウィザードを黙らせるために送り出された崇拝者の攻撃部隊が到来する。戦闘終了後、PCはアサーラックの塔まで旅をし、彼の悪しき計画を止めるように依頼される。

 PCがモイルの“引き裂かれた塔”に到着後、彼女らは塔の側面に張り出した幾つかの小塔を調査することで、秘術装置にパワーを供給する複雑な機構を発見する。彼女らは機械を監視するフォーセイクン・シェル、ヴァンパイア・ウィザード、強化されたシェイドスチール・ゴーレムと対峙する。

 塔にはいくつかの侵入方法があるが、PCが不注意であるなら封鎖しているヴォイドストーン製の扉で灰にされてしまうだろう。2つの防御陣の1つ目は侵入者に対する罠で、トリガーされたなら死霊酸スライムの奔流が殺到する。第二の陣は生きている者にとって致命的な、負のエネルギーの矢で満たされている。

 塔の五層すべてを捜索する過程で、PCは占術から塔と住民を防護するブレイン・イン・ア・ジャーとその護衛であるレイジウィンドと遭遇するだろう。彼女らはまた様々な罠、ヴァンパイアのウィザード、人間の崇拝者、さらに塔の複雑な機構の秘密を知るガエルを警護するデス・ジャイアントに出会うだろう。彼女らはまた、四本腕のハーフ・フィーンド・ガーゴイル、マミーの研究者、火と冷気を吐き出すアイアン・ゴーレムと戦うだろう。

 もしPCがガエルをデス・ジャイアントから救出するなら、彼女らは彼女と同盟を組むかもしれない。彼女はアサーラックの機械を止めるだけではなく、彼を弱体化させるためその流れを反転させる方法まで知っている。

 塔の下のダンジョンに踏み込むことで、PCはリッチ・アサーラックと従者のマリリスと対峙する。もしPCが機械を破壊するかガエルの助けを借りて停止させているなら、リッチとの遭遇は脅威が低下する。そうしないのであれば、彼らの対峙は極めて困難になるだろう。

 もしPCがアサーラックの破壊を成功するなら、冒険の本質は終わる。もし彼女らが複雑な魔法機械を使う秘密を学ぶなら、彼女らは最近の犠牲者の生命を救えるかもしれない。彼女らはまた、聖ペンティヴァルの運命についての知識を関係者に提供することができる。


冒険の終わり Concluding the Adventure

 もしPCがアサーラックを破り、彼の経箱を破壊するなら、彼の生ける存在に対する脅威は終わる。しかしながら、もし崇拝者のいずれかが、彼の仕事を引き継いでモイルの“引き裂かれた塔”に残るなら、冒険は完了したとは言えない。もしPCがアサーラックの物理形態だけを破壊して経札を破壊していないなら、リッチはまもなく復元し、デミリッチになる努力を続けるだろう。彼は望みのままに多次元界を彷徨することができる - したがって復讐のためにPCを探し出そうとするだろう。たとえPCが彼の手先を全滅させたとしても、アサーラックは新たな手先を集めるか作り出すには長くかからないだろう。そうして欺瞞と死のサイクルが再開される。

 塔はそれ自身が謎だ。キャラクターがここに留まることを計画するにしても、負のエネルギー界である限り、PCには常に新たなるアンデッド・クリーチャー - 単に塔に引き寄せられたのか、アサーラックの同盟者か - との遭遇にさらされ続ける危険がある。また考えなくてならないのは次元界の悪影響だ。モイルの“引き裂かれた塔”は強力なアーティファクトであり、死者に生命を与え、失われた四肢を復元させ、いかなる病をも治癒させることができる。正しく使えば、それは永久に強力な道具となるだろう。 間違って使うなら、ザ・ソウル・マシンはすべての生者を害する脅威になる。PCはどうやってそれを負のエネルギー界から移動させるだろうか? これらは臨機応変なプレイヤーと強力なキャラクターが解答を見つける必要のあるジレンマだ。覚えておくべきは、ザ・ソウル・マシンの機能はこの冒険に記されたものだけに限定される必要がない。第11区画のモイル文書を使うことで新たな機能を理解し、また多くの可能性について言及できるかもしれない。

 もしPCがアサーラックと彼の教団を完璧破壊することに成功したなら、物語報酬としてそれぞれに10000経験点を与えろ。もしザ・ソウル・マシンの受容器官内に捕らわれた冒険者たちをアサーラックが魂を抜き出す前に助け出すことができたなら、追加して10000経験点をそれぞれに与えろ。