ドラゴンスピア城の亡霊/Ghosts of Dragonspear Castle D&D Next 20130815

DR1485


ダガーフォード・キャンペーン/Daggerford Campaign

 ダガーフォードは駆け出しの冒険者でも名を売り出せる、ソード・コーストにおいて小さいながらも重要な街だ。そこはキャンペーンの出発点として最適だ。なぜならダガーフォードの周囲は様々な探索に適し、また街から適度な距離に重要な都市が3つもあるからだ:つまり北にはネヴァーウィンターとウォーターディープ、南にはバルダーズ・ゲートがある。要するに、ソード・コーストの作用点に位置するのだ。

 プレイヤーは267ページに用意した事前作成キャラクターから選択して開始しても良いし、D&Dネクスト・ルールに従い自作しても良い。数名のPCはダガーフォードで生活する住民かもしれない。または近隣の農場か、付近に位置するデリンビーア渓谷(輝き谷としても知られる)の出身であっても構わない。君は134ページの「ダガーフォードの街」を素材にして、プレイヤーが地元キャラクターの背景を肉付けするのを手伝っても良いし、NPCを助言者や教官として関連させても良い。他のキャラクターは旅人として、またはいずれかの目的地に向かう途中で街を通過しているかもしれないし、冒険を求めてダガーフォードにやってきたのかもしれない。

 ダガーフォードはいろいろな意味で田舎町の結晶だ。モンスターのはびこる丘陵地帯、不気味な森林、城や邸宅の廃墟、荒涼とした沼沢地。ダガーフォードを際立たせているのは、多彩なNPCと、PCの探検におあつらえ向きな思い出に残るダンジョンだ。このミニ・キャンペーンを君がどのように動かすかについて、検討するべき部品を提供する。

  • キャンペーンの運営
  • 駆け出しの冒険者に興味を持つ、多彩なNPCを記した『ダガーフォード人名録(135ページ)』
  • デリンビーア渓谷のマップ(141ページ)

 

キャンペーンの運営/Running the campaign

 ダガーフォードは海に注ぐ河川の河岸に設けられており、典型的な中世入植地の要素がすべて詰め込まれている。そこはキャンペーンの開始場所として最適である。近隣にはスリリングな冒険を約束する蜥蜴沼/Lizard Marsh、高湿原/The High Moor、イレファーン山/Mount Illefarnの根を穿つドワーフの迷宮、そしてドラゴンスピア城/Dragonspear Castleの廃墟があるからだ。ダガーフォードはソード・コーストに鎮座する2つの大都市 - ウォーターディープとバルダーズ・ゲート - を結ぶ、整備された交易路沿いに位置している。多くの隊商と噂話が街を通過し、そしてより多くの冒険と陰謀の好機が生み出されている。
 この長い章の終わりに、君はダガーフォードとその住民、駆け出しのクレリックやファイター、ローグ、メイジを鍛え諭す多彩なNPCの完璧な解説を見つけるだろう。DMとして、君はこれらNPCとの関係を発展させてもよいし、また適切と見るなら別の人物を取り入れても良い。この章の最後にダガーフォード近傍の興味深い地域に関する情報や、プレイヤーが付近を探検や略奪し、追加経験点を得るために活用できるランダム遭遇表が用意されている!
 この章の大部分は冒険に集中している。この本の4つの冒険は、キャラクターを1レベルから10レベルまで成長させる。それぞれの冒険をプレイするのに少なくとも8時間を要する。理想を述べるなら、君は短くとも記憶に残るD&Dネクスト・キャンペーンを過ごすため、頼りになるプレイヤー・グループに属するべきだろう。
 君が冒険を運営するために必要とするすべてがこの本にはある。それにはベーシック・ルールとキャラクター作成ルールが含まれる。君は第5章の最後に魔法のアイテム解説、第6章にモンスター・データを見つけるだろう。
 それぞれの冒険は独立した物語であるが、その背景にはすべてを貫く要素が存在する。これらについては次の『プレイヤーが知り得ないこと』で記される。君がキャンペーンを始める用意ができたなら、『どこから始めようか…』に進め。
 

プレイヤーが知り得ないこと/What the Players Don’t know

 故国サーイから離れることはるか彼方のソード・コーストにおいて、レッド・ウィザードたちが秘密の要塞を築いている。要塞には学院と四大元素のノード - 巨大な元素の力を納めた貯蔵庫 - に接続された魔法のポータルが設けられている。レッド・ウィザードたちはこのエネルギーを制御し、それでソード・コーストの諸都市を脅やかして従属させる計画を企んでいた。
 元素ポータル自体は大昔、退廃的で金満で不道徳なネザリル貴族の秘密結社が生み出したもので、"邪悪なる元素大公"を崇拝する教団がここに設置した。教団の活動が望ましくない注意を引き付け始めた時点で、指導者はポータルを封鎖して4つの元素鍵を取り外すと、寺院と教団を解散して逃げ去った。それぞれの鍵は念視を排除する地水火風の"元素大公"の祭壇に隠され、地下に埋められた。
 レッド・ウィザードたちは消え去った元素教団を研究し、かつてのメンバーの魂に聞き取りをし、元素鍵がソード・コーストのどこに隠されているかを追跡した。そしてついにはるか昔に引退した元素教団の指導者にたどり着いた。レッド・ウィザードたちは4つの鍵を捜索し、発見し次第秘密基地に送り出すよう準備を整えた。
 レッド・ウィザードたちはすでに“風の鍵”を入手しており、他の3つについても入手寸前にある。しかしながら、彼らは大きなつまずきを経験した:ダガーフォード当局機関が、当該地域における責任者であるアーヴィック・ザルタスを拘束したのだ。彼の損失は計画全体を危険に曝す。もっと悪いことに、レッド・ウィザード情報網の欠陥から、アーヴィックの上役は彼の逮捕も、裁判も、判決も、刑が執行されようとしている事実もつかんでいなかった。
 レッド・ウィザードはダガーフォードを襲う唯一の脅威ではなかった。ネディア(“どん底”の意)という名前のラークシャサが、旧敵であるアイスティヴァル卿に復讐を果たさんと街にやって来たのだ。パラディン卿は何年も前に、数人の仲間とともにコアミアでこのラークシャサを抹殺していた。ラークシャサは復元されるまでの間に弱体化した霊魂を九層地獄に送られ、ネディアはそこで数か月に渡ってアイスティヴァルを倒すための計画を練った。ネディアは旧敵がダガーフォード当局機関で働いており、彼がレッド・ウィザードたちの脅威と戦っていることを知った。ラークシャサはアイスティヴァルを破滅させるため、考えなしにレッド・ウィザードを支援することを決めた。
 

元素鍵と"邪悪なる元素大公"/The Elemental keys and Princes of Elemental Evil

 サーイのレッド・ウィザードたちは、ダガーフォード周辺地域の様々な場所に四散した4つの元素鍵を求めている。この書の冒険は、キャラクターが困難を乗り越え、4つの元素鍵を入手する過程を描く。プレイヤーがすべてに成功したとしても、大部分またはすべての鍵がレッド・ウィザードたちの手中に納まる可能性は高い。それは気にするな。
 元素鍵はD&Dエンカウンターズの2014年シーズンにおいて重要な役割を果たした。プレイヤーはそれらが重要だと考えるのであれば、元素鍵をレッド・ウィザードたちの手から遠ざけるべきだ。彼女らがそれに失敗するとしても、彼女らはアイスティヴァルの信頼を獲得し、悪しきラークシャサのネディアを打ち破っているだろう。
 "邪悪なる元素大公"はフェイルーンではほとんど知られておらず、またほとんど崇拝されていない。レッド・ウィザードたちは大規模な調査の結果としてそれらについて知っているが、他に知っている者はほんのわずかだ。
 それらは狂える教徒を広範に引きつけるが、“大公”自身は神格というより強大なモンスターに近い。中心的な元素大公は4柱で、アイミックス("邪悪なる火の元素大公")、オグレモク("邪悪なる地の元素大公")、オールハイドラ("邪悪なる水の元素大公")とイエンシービン("邪悪なる風の元素大公")だ。

 

どこから始めようか…/Where to begin ...

 君はキャンペーンを開始するにあたり、以下の文章をプレイヤーに読み聞かせろ。
 

 毎年真夏ごろに開かれる祭りに参加するため、ソード・コースト中から人々がやってくることから、ダガーフォードの住民は増加する。混雑した大通りでは商人が商品を売り歩き、綱引きや組打ち、パイ食い等、あらゆる種類の勝負を見物しようと群衆が押し寄せる。
 しかし悲しいかな、今年は天候に恵まれず、祭りを湿らせた。沿岸からやってくる、分厚い黒雲からの豪雨が暗い通りを覆い尽くした。客たちは地元の宿屋や酒場に押し込められ、高い蒸留酒をあおり、音楽を楽しんでいる間に天候改善することを期待したが、嵐は容赦なくいつ終わるか見当もつかなかった。
 驚くまでのこともなく、嵐は無数のうわさを掻き立てた。街を襲った最近の出来事。つまりサーイのレッド・ウィザードと信じられている刺青の男についてだ。さて、レッド・ウィザードが故郷からはるか離れた遠くまで来て、いったい何をしているのだろうか? 地元の噂好きによれば、彼は魔法で変装しており、こともあろうにフロシン公の園庭として働いていたそうだ! そう、2週間前、オークとハーフオークに領地を襲撃されて略奪を受けたあのフロシン公だ。彼らはそのレッド・ウィザードが手引きしたと言っている。そのため彼は祭りの後に絞首刑になるということだ。
 フロシン公が攻撃中に在宅していなかったことは幸いだ。彼はオークに捕えられ、連れ去られたはずだからだ。それは彼の使用人たちに起きた。彼らに神々のお守りを! 彼らの恐るべき運命については想像するしかなかった。

 
 もしプレイヤーが動かないようであれば、今が互いに自己紹介をする時だろう。PCはダガーフォードの古くからの住民か、夏祭りを期待して訪れた訪問者かも知れない。しかしながら、どちらでも構わないが、一同の中に街の住民と強いつながりがあると良いだろう。
 この章の末尾に、君はPCとの結びつきに適するダガーフォードと重要NPCの記述を見いだすだろう。もし彼らがキャラクターの背景作成に手こずっているなら、遠慮なく君のプレイヤーに、これらのNPCとの関連を与えろ。これらのNPCの多くは、1レベル冒険者のための優秀な助言者となるだろう。
 

レッド・ウィザード/The Red Wizard

 アーヴィック・ザルタスという名前のレッド・ウィザードが、オークとハーフオークから成るクラァトスカル(のろま頭の意)一族を雇ってフロシン館を襲撃させた。その混乱のさなか、アーヴィックはフロシン家の墓所に侵入した。ステンドグラスに飾られた祭壇はイエンシービン、すなわち"邪悪なる風の元素大公"を顕していた(『元素鍵と"邪悪なる元素大公"』参照)。アーヴィックは祭壇を打ち壊し、中で隠されていた"風の鍵"を見つけるとダガーフォードに潜入している見習いに渡した。一方、クラァトスカル一族はフロシン公の使用人を捕らえ、ダガーフォードの北の丘陵に設けた棲処に連れ去った。減少傾向にある一族を補充するため、種畜として活用するからだ。アーヴィックにとって不幸だったのは、フロシン公のメイドの1人が捕獲者から逃れ、町に逃げ戻ったことだ。彼女は当局に駆け込み、アーヴィックとオークが共謀していた訴えた。アーヴィックは武装して変装(本当の姿を隠す魔法の変装)していたが、当局機関は彼を速やかに発見して拘束した。
 フロシン公の領地を襲撃して捕らえられたレッド・ウィザードに関する情報が最初の冒険の舞台となる。ほとんどの地元民は断片的な情報しか持たず、率先して情報を広めようとは考えていない。キャラクターはあちこちで聞き回り、難易度15の【魅力】判定に成功することで以下の情報を収集することができる:

  • 街の北側の丘陵地帯においてオークの目撃情報は頻々になっている。公爵は北部の警戒を「強化する」と宣言した。
  • アモーネイター神を崇拝する地元のパラディンであるアイスティヴァル卿はフロシン公の友人で、レッド・ウィザードの目論見について興味を持っている。
  • 刺青の男は、フロシン館の襲撃から2日後にダガーフォードで拘束された。彼は拘束される前に、不明のいかがわしい人物たちと接触していた。
  • 刺青の男の名前はアーヴィック・ザルタスだ - 少なくとも、彼が(短い期間であったが)フロシン公の下で働いたとき、彼はそう呼ばれていた。

冒険1:日を喰らう寺院/Adventure 1: Fane of the Sun Swallower

冒険2:アンバーガル家の呪われた墓所/Adventure 2: The cursed crypts of Ambergul

冒険3:イルファーンの没落/Adventure 3: The Fall of Illefarn

冒険4:ドラゴンスピア城/Adventure 4: Dragonspear Castle

 

帰路/Homeward Bound

 君がまだキャンペーンを終了させるつもりがない場合、帰路のキャラクターにランダム野外遭遇を起こすことができる(117ページ参照)。彼女らは丁度大仕事を成し遂げたところであり、これらの遭遇は比較的容易な気分転換となるだろう。
 

旅篭と掃討/Way Inn or Way Out

 レッド・ウィザードはどこでどうやってパーティーを発見したのだろうか? この質問への解答はキャラクターがミラバーのドワーフ密偵である、“半端鉱脈”のダーガス、“青銅曲げ”のイルヴァーから得られる。
 街道旅籠に戻ったキャラクターは油断しているドワーフを発見するかもしれない;しかしながら、ダーガスとイルヴァーは可能ならドラゴンスピア城から離れようと北に出立している可能性が高い。彼らの行方を突き止めるには、キャラクターはアイスティヴァルの捜査網と接触する必要があるだろう。最終的に彼らが捕らえられるなら、ドワーフたちはレッド・ウィザードのツィルチ/zilchついてに知っていると自白する。君たちがアイスティヴァルの尋問を止めないのであれば、ドワーフたちは知っていることを洗い浚い吐かされるだろう…。
 

結末/Conclusion

 冒険者が最終的にダガーフォードに戻ったなら、プレイヤーに以下の文章を読み聞かせろ。
 

 そこは故郷ではなかった。しかしダガーフォードは故郷に帰るような気分にさせてくれる街だ。町は白い雪で薄っすら覆われている。詰所に温もりを求めて立ち去る衛兵の足跡を除き、すべては静寂に包まれていた。安息に満ちた平和な夜だ。
 ウィザードのディルフィンは、塔の書斎の、霜の付いた窓から街路を見下ろした。「世界は再び変化している。」彼はつぶやいた。
 「とは言うものの」と腰掛けから声がする。「冬はまた来て、そして去る。月は満ち、そして欠ける。グリフォングリフォンだ。すべてが変化するわけではない。」
 「たしかに」とディルフィンが言う。「素晴らしいな。」
 グリフォンはパイプを吹かして煙を吐き出すと、デルフィンの鼻先に送り出した。彼は軽く手を振ってそれを散らす。
 「それで、レッド・ウィザードは隠し砦で何をしたのかね?」
 「友よ、英雄を生んだのだ」腰掛けの声。「英雄だ。」
 「なるほど!」とディルフィンが答える。「おぬしの答えがすべてだな。」

 

ダガーフォードとその先/Daggerford and Beyond

 5世紀ほど前、伝説の語るところ、大都市ウォーターディープから1つの隊商が南下した。旅の長い1日の終わりころ、隊商の長はまだ若い息子を、輝く河に渡り場がないかと調査に送り出した。
 タインダルという若者は、荷馬車が渡るのに理想的な浅瀬を発見したが、暗闇の中で彼はリザードフォークの群れに待ち伏せされた。手にある古いダガーだけで武装していた彼は、隊商の応援が到着して襲撃者を追い払うまでに6体ものクリーチャーを倒していた。
 この驚嘆の逸話はソード・コーストを渡る隊商たちの間で瞬く間に広がった。この浅瀬は“ダガーのフォード/浅瀬”と呼ばれた。そして河を見下ろす斜面の上に町が築かれたとき、そこはダガーフォードの名を冠することになった。今日まで、ダガーフォードを統治する公爵は勇者タインダルの家系の者だ。
 この物語はソード・コースト魂を示している。リザードフォーク、トロール、オークの群れ、厳しい冬と至る所で脅威に直面しつつも、ウォーターディープ、ネヴァーウィンター、バルダーズ・ゲート、そしてその間に位置するすべての町と村を築き上げたヒューマンの植民者たちは、決しして屈伏せず、意志強く、臨機応変で、勇敢だ。彼らの子孫はその伝統を尊んでいる。
 今日のように、世界がばらばらに引き裂かれ、そして諸神格が定命者を惑わせる時代において、ダガーフォードの周辺地域は大きな危険に満ちている。その市民軍は町を守るために槍をしっかりと握りしめて警戒しているが、ダガーフォードにはまだまだ冒険者が必要だ。