量産型グフ

 この機体は宇宙世紀0079年12月30日に、ア・バオア・クー戦と同時に戦端が開かれたキャリフォルニア・ベース攻防戦に投入されたグフ最終生産機である。

 機体には部隊章が一切なく、左脚のブーツに「G-C-08-13」と書き込まれているだけである。これは「グフ」「キャリフォルニア・ベース製」「第8ロット」「13号機」の意味であり、製造ラインから搬送された時点で作業員の手により書き込まれる仮番号だ。これは部隊配備された時点で消され、代わりに各種部隊章等が書き込まれるのだが、生産ラインを出てエンジンに火が入った時点で部隊配備なしで即実戦参加となったため、消されなかったものと推察される。当時の混乱が偲ばれる。

 生産計画によると、量産型グフの第8ロットは18機を予定していたが、この13番機が生産ラインを出た時点で連邦軍の攻撃で工場が崩壊したため、14番機以降は完成せずこの機体が最終生産機となった。

 各部の汚れからこの機体が実戦に投入されたのは間違いなく、シールド、肩部アーマー等の消耗部品のみが新品であるが、これはこの機体が終戦間際まで整備万全であり続けたという証左であろう。なお、シールドに記されている「8-127」は第8ロット127枚目のシールドの意味である。生産施設での攻防戦であり、消耗品はその都度交換していたのだろう。


 なお、この機体のパイロットは判明していない。連邦軍のガンカメラによると、複数のGM等を撃破または擱座されたエース機であり、連邦軍も一時期熱心に捜索したが、内部データは物理的に破棄されており、復元はかなわなかった。

 一説によると、このグフのパイロットは正規のジオン軍人ではなく、工場で働く徴用工であったという。正規軍人でなく戦場に出たということは民兵であり、軍事法廷で処断される立場であるため、隠匿されたのではと噂されている。

 しかしながら、工場職員たちのほとんどはジオン国民であり、その結束は固く、半年ほどの拘留の後に全員ジオン本国への帰国を許されたため、パイロットの正体については謎のまま、戦後の混乱の中に飲まれて消えた。