背景/Background

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 “黄金の軍団”の襲撃は手当たり次第と思われていた。しかしその襲撃には目的があった:新しい徴集兵を捕え、そしてホーン男爵領の防御を打ち砕くことだ。軍団兵の多くは以前の襲撃で捕囚になった人々である。現在のところ、彼らはNERO(近地球偵察監視施設/Near-Earth Reconnaissance and Observation)として知られるはぐれAI施設によって奴隷にされている。“義勇兵/volunteer”の脳にはNEROにより個人の意志を圧して制御するためのコンピューター・ハードウェアが埋め込まれた。そして新たな下僕には外科的に黄金の鎧と兵装システムが与えられた。奴隷となったサイボーグ兵士たちは監視役である“百人隊長/centurions”として知られる人型ロボットが率いている。

 NEROは本来月を防衛するために作られた月面施設だ。それは何十年もの休眠を経て、最近の月震をきっかけに復活した。AIが周辺環境(月面第9地区)を調査した結果、“異星人”は月を蹂躙したと結論付けた。そして全面核攻撃が必要と判断した - それだけが可能な手段だった。発射命令はガンマ・テラが発する必要があったが、惑星上にはすでに有効な発射コードを付与できる者は誰もいなかった。そこでNEROは自身に新たな任務を与えた:ガンマ・テラに政府を再建するのだ。この計画を実行するにあたり、AIはガンマ・テラを占領した“侵略的異星人”を掃討するため、市民による民兵隊を動員する予定だった。新たな政府が開かれて適切な選挙が行なわれたならNEROは立候補し、そして自らが最高指揮権を得る。そうすることで自らに発射ボタンを押すことを命じるだろう。この計画はNEROの感覚において完璧だった。少なくとも劣化したAIの処理システム内においては - たぶん。

 もちろん、NEROは月面の指揮掩蔽壕にいる。それはガンマ・テラでの作戦を困難にしている。AIにとって幸いなことは、LUCAS研究所を含めた古い月面計画の支援基地ネットワークに対するアクセス権を保持していたことだ。これら転送施設はガンマ・テラ各地に分散しているため、NEROは“黄金の兵士”を自由自在に襲撃に送り出し、また回収することができた。これまでのところ計画はうまくいっていた。そしてAIは選挙運動バッジのデザインに傾注した。NEROを大統領に - そこそが唯一の論理的な選択なのだ!