出来損ないたちの讃歌:ドクター・ケイオスの逆襲

相も変わらずリアクションはないが、とりあえず冒頭。


 君たちは冒険者だ。今日も君たちは首尾よく依頼を終え、意気揚々と拠点都市に帰還するところだ。
 依頼主は、山ふたつ越えた町のウィザードで、「家出した使い魔(家猫)を探してくれ」だったが気にしないことにした。なぜならそんな依頼には慣れているからだ。
 君たちは決して主流派の冒険者ではない。確実性を求める依頼主はたいてい首都を拠点とする有名な冒険者に依頼する。あなた方に廻って来る依頼は半端仕事だけだ。


 君たちが拠点とするのは“月湖 Lake Moon”のほとりにたたずむ城塞都市エライン Fortress Castle Aeraineだ。
 エライン市は山間部に位置する観光都市で、清涼な気候と美しい湖を持つことから王侯貴顕の避暑地として利用されている。夏になれば湖を色とりどりの帆を挙げたヨットが湖を走り、乙女たちの笑いさざめく声が聞こえる。
 君たちがここを拠点に選んだのもそれが理由だ。多くの貴族はつまらない悩み事を抱えており、それを手助けしてくれる人材を求めている。君たちは貴族やその周囲の腰巾着が困り事を抱えた時にそれを解消することで日々の糧を得ている。


 君たちが今進んでいるのは木立に囲まれた山道だ。次の峠を越えると月湖と“麗しのエライン”が目に入る。そうすればエラインまであと半日だ。日暮れまでには城門をくぐれるだろう。戻れば熱い風呂と美酒、遊女が待っている。
 途中で同じく帰還途中の顔馴染みである冒険者たちに出会った。彼らも君たちとおなじく非主流派だ。君たちは自分たちの受けた依頼の愚痴をこぼし、相手の愚痴を聞いた。互いの境遇に涙をこぼし、いつかは国いちばんの英雄になれる日を語り合った。
 まもなく峠に差し掛かる。しかしいつもと様子が違う。彼方の空に立ち上る黒いものは何だ? 黒煙か? 君たちは走った。峠を越えた君たちの目に入ったのは、黒く変色した月湖、壊れたおもちゃのように漂うヨット、黒煙を上げるエライン市、そして尖塔の一つに止まって市内を睥睨する黒いドラゴンの姿だった…。