“終末の要塞” Fortress of Conclusion 『30 究極化の経箱 The Phylactery of The Apotheosis』

 大きなドーム型をした部屋の天辺には、赤いクリスタルが狂気の魔眼のように輝いて下を照らしている。深紅の光は明らかに多面体のクリスタルから発せられている。部屋の中央に鎮座するそれは干し草の山のように大きい。クリスタルの切子面には断続的にエメラルドグリーンの薄光がひらめき、壁に映る赤に不吉な極彩色を沿えている。苦悶の表情を浮かべた無言の亡霊の顔が、切子面に映っては消える。巨大なクリスタルは黒い金属製の三脚の上に置かれ、その高さは人の背より高い。床には宝石よりも大きな大穴が開いている。この穴は、冷たく絶対の暗黒の亀裂の上に開いている。


 もしPCがこの部屋に達するなら、彼女らは差し当たって罠やウィンターワイト、ネガティヴ・エナージィ・エレメンタル、タナーリ等との遭遇の心配はない。不幸なことに、この長い冒険におけるすべての試練と苦難を乗り越えてきたPCは、自身らが“最後の報酬”にふさわしいだけの胆力を持ち合わせていると証明した。それはアサーラックの究極化を始めるための触媒となる魂の証明である。

 キャラクターが全員この部屋に入って1ラウンド、石と骨をすり合わたような声が聞こえてくる:

 「貴公らは危険要因と脅威を押し通り、文武に対する卓越した挑戦を退けてここまで来た。この旅は熾烈だったが、貴公らはすべての試練を打ち負かした。貴公らの魂は浄化され、鍛え上げられた。我が面前に立つ貴公らの精神を目にしたなら輝かんばかりだろう。我はそのような魂を求めていたのだ;貴公らがそれを最終触媒として提供してくれたなら、我は負のエネルギー界との合一を果たすだろう! さあ、究極化を始めよう!」


 そうしてドームの上部から赤い光が降りてくる。それは人型生物の頭蓋骨に嵌められた宝石の片眼から放たれていた;その宝石で飾られた頭蓋骨は不安になるほど、最初の“墓所”の第33区画で目撃した、魂を吸収するデミリッチに似ていた。

 PCが経箱の部屋に入った時点で、アサーラックは即座に侵入に気付く。デミリッチは彼の精神を、部屋の上部を常時浮揚して宝石の片眼から激しい光を放ち続ける“第二デミリッチ”に移動させる。アサーラックの精神がこの頭蓋骨に宿ると、最初の“墓所”の第33区画で確認された最初の頭蓋骨と同じように機能を開始する。しかしながら、ここでのアサーラックは積極的に動く;彼は少なくとも3つの魂を吸収しようとする;頭蓋骨の眼窩に嵌ったルビー(それぞれ50000gp相当の価値)のそれぞれ、下顎の歯列に嵌った6つのマーキス・カット・ダイアモンド(それぞれ5000gp相当の価値)の1つにだ。もしバロールのタルンヘムが生きているなら、アサーラックは彼をデミリッチがPCの魂を吸収するすきを作らせるため、鞭と(第31区画の)刃を装備させて警護役として配置する。さもなければ、アサーラックはパーティーに対峙するのを手伝わせるため、タルンヘムをここに呼び寄せる。

 魂を吸収するため、アサーラックは犠牲者から20フィート以内に位置しなくてはならない(通常は頭上でホバリングする)。彼は膨大な経験から、パーティ・メンバーの中でも最強の者を狙う。彼は即座に犠牲者の魂を吸収して頭蓋骨右眼窩の宝石に捕らえる;犠牲者の肉体はたちまち腐敗して崩壊する - 1ラウンド後には崩れ去って塵と化す。デミリッチは2ラウンドを魂吸収に集中すると、以降は3ラウンドに1回ずつ魂を吸収する。彼が3つ目の魂を吸収するとともに、彼は残ったPCを無視して(“目撃者として取っておくため”)究極化(以下参照)を開始する。

 PCは最初の“墓所”で発見したデミリッチの頭蓋骨とほとんど同じの、恐るべきパワーを発揮する頭蓋骨との直接戦闘を選択しなくてはならない。

 もし頭蓋骨が究極化を開始する前に破壊されるなら、宝石を観察することで内部に捕らわれた魂を確認できるため、宝石を砕くことで精神を解放することができる。精神は10フィート以内の肉体(たとえば近くに倒れている遺体)に入り込む;さもなければ、魂は負の物質界に開いた穴めがけて吸い込まれてしまう;もがく精神は苦悶の叫び声をあげながら消失する。このような精神は永久に失われる。主物質界で解放された精神は、“休息”のためその属性に応じた外方次元界を目指して飛び去る。もしPCが宝石に吸収されたなら、キャラクターの肉体の残骸のそばに宝石を置き、リザレクション呪文を発動することで回復することができる。


登場モンスター アサーラック:デミリッチ形態


経箱 The Phylactery
 究極化への鍵は、この巨大な宝石の形をした経箱だ。そのクリスタルの内部に閉じ込められた絶望に発狂した魂は臨海数に達している(2692体分)。この臨界状態は負のエネルギー界の持つ平衡状態を乱し、“陽を待つ都市”を経由して、アサーラックの最初の“墓所”周囲の主物質界に浸闇症状を起こしている。ここに触媒として試練で浄化された魂を3つ(これはPCだ)投入することで究極化は始まる;これらの魂はアサーラック自身を負のエネルギー界のエッセンスの中に没入させ、彼の精神を認証させるために燃やす“燃料”だ(究極化参照)。

 経箱のクリスタルに素手で触れることは死を意味する;違反者の魂はセーヴィング・スローなしでクリスタルに吸収され、その肉体はおそらくその下の虚空に落下して消え失せる。

 クリスタルの下の穴はまさにむき出しの負の物質だ。それに触れるか落下した者はただちに過酷な状況下に置かれる。がっしりした金属の棒で組まれた巨大な三脚が立ち、直径20フィートはあるクリスタルをこの暗黒物質の上で支えている。

 もしPCが三脚の少なくとも2本を破壊したなら、クリスタルの経箱は闇の中に落下して永久に失われる。それはPCが経箱自体を物理的に破壊したのと同じ影響を与える(以下参照)。それぞれの脚はAC0で66ヒット・ポイントを持つ(訳注:このACはAD&Dのものである)。それは打撃武器か魔法の[電撃]か[酸]か分解効果が有効だ。呪文ならライトニング・ボルト、メルフズ・アシッド・アローは通常にダメージを与え、三脚がセーヴィング・スローで12以上をロールしたなら半減ダメージを与える。ディスインテグレイト呪文は1本の脚を破壊する。打撃武器の一撃は通常にダメージを与える。-25%の「棒曲げ」判定に成功したなら、1本の脚を破壊する。この鉄の三脚は、ラスト・モンスターやブラック・プディング接触といった他の攻撃に対して無敵だ。

 経箱そのものを物理的に破壊するためには、+4以上の魔法の武器(シャープネス武器やヴォーパル武器も有効だ)で100ポイント以上のダメージを与える必要がある。経箱のACは8だ。経箱に対する魔法的効果や呪文(テレポート含む)は、太陽光を再現する効果以外は吸収されて無効化される(以下参照)。

 クリスタルを物理的に破壊するなら、アサーラックの魂は真に完全に破壊され、彼の脅威は永久に終わる。しかしながら、これは捕らわれた2000以上の魂が負のエネルギー界に吸収されて破滅させることを意味する。アサーラックを完全に破壊するため経箱を破壊しようとクリスタルに一撃を加えようとしたPCは、切子面に浮かび上がる怯える面々と向き合うことになる。彼らは叫ぶ。「アサーラックの経箱を破壊したら我々は破滅してしまう! 我々の精神は永久に虚無に呑み込まれてしまう!」

 同時に他の叫びも響く。「我々を解放してくれ! 我々を自由にしてくれ!」これを聞いたPCには追加の知識が与えられる。経箱から魂を解放することは、アサーラックのエッセンスも四散することになる…。そしてそれは彼を殺すこともできなくなる。これはPCに与えられた課題だ:経箱を破壊すればアサーラックの脅威は永久に終わりを告げるが、捕らわれた魂にも永劫の罰が下される。魂を解放すればアサーラックは衰退するだろうが、いつの日にか彼は再来し、同じような悪しき企みを再開するだろう。

 PCが魂を解放することを選択したならこのような叫びが聞こえてくる。「どうやってやるんだ?」 いずれにしても、PCに最も近い切子面に若い少女の顔が浮かび上がる。彼女は言う。「ただ、太陽の光のみが私たちの道を開くでしょう;それは私たちを平安にいざなうでしょう」 この年若い少女の精神を見て、PCは“髑髏都市”のE出入口で出会った狂える死霊術師デニーレより聞き知った話を思い出すかもしれない。サンレイ呪文、ワンド・オヴ・イルミネーションからのサンバースト効果、PCが“陽を待つ都市”で拾えるワンド・オヴ・デイズ、その他陽光に関連する魔法のアイテム、言い回しを吟味したウィッシュ呪文(経箱に陽光を照らせなど)等であるなら、人々の魂は安全に“死後の安寧”に向かい、そして当面のところアサーラックのエッセンスも四散する。


究極化 The Apotheosis

 現在、アサーラックは彼の制御精神を要塞内の任意のアンデッド・クリーチャーに転移させることができる。もし彼の究極化が成功したなら、アサーラックは制御精神を任意の世界や次元界に存在する任意のアンデッド・クリーチャーに転移させることが可能になる。アサーラックはある意味、彼の意識を持つ負のエネルギー界そのものになる。その結果、虚無の力を以て動くすべてのクリーチャーは、かつてのデミリッチの完璧かつ完全な支配下に入るだろう。アサーラックの邪悪な能力は境界線がなくなり、彼は野放図となるだろう;彼が住み着いたアンデッド体の破壊は可能だが、近くにあるかはたまた別の次元界にある別のアンデッドに転移するだけだろう。言葉を完璧に吟味したウィッシュ呪文であっても、完璧に負の物質界と合一したアサーラックの本質を分離するのは不十分だろう。

 もし究極化が始まったなら、以下の枠内文書を読むか言い換えろ:

 忌まわしい頭蓋骨は巨大な宝石の10フィート上方に飛び下がる。クリスタルから頭蓋骨に向け、深いエメラルドの光束が炸裂し、それは光に包まれる。頭蓋骨の顎が激しく動き、部屋中にけたたましい、不浄な、激しい狂気のような、歓喜の雄たけびが響き渡る。経箱の切子面に浮かぶ様々な顔は苦悶に歪み、その悲鳴が轟く。それは頭蓋骨の発する雄たけびと混じり合い、激しい不協和音となる。


 上記の説明は究極化の開始を意味する。この時点で頭蓋骨を破壊しても意味はない;経箱の破壊のみが認証を止めることができる。もし止められないなら、究極化は開始から10ラウンドで完了する。この時点で、頭蓋骨は集められた魂の発するエメラルドの光芒を受けて塵と化し、アサーラックと負のエネルギー界は分かちがたく結合される。クリスタルの底から緑の光芒が放たれ、経箱下方の暗黒の穴に向けて消え去る。この後、クリスタルの内部は完璧な闇と化す;魂は消費されて失われる。本文末尾の結末にある、さまざまな結論と影響を参照しろ。