『剣の女王』より

…ぴょんぴょんと跳ねるものが幾体も谷間を越えてやって来る。数本の脚を使って跳ねており、本体からは一ダース以上もの触手が突き出ていた。それぞれ巨大な両眼をまわし、がっしりした犬歯をかちかちと噛み合わせている。
 『ザートのカーマナルだ』ジャリーが軽い驚きの表情を見せて言い、手綱を落として、長剣と短刀で武装した。『あいつらとは前に出くわしたことがある』
 『どうやって逃げたの?』と、ラリーナ。
 『そのときのおれは、あいつらをやっつける力を持った英雄に付き添っていたんでね』
 『わたしにも力はある』コルムは厳しい表情で言い、片手を目のところへ上げた。だがジャリーは首を振り、顔をしかめた。
 『俺はそうは思わんよ。ザートのカーマナルって奴は不死身なんだ。〈法〉も〈混沌〉もそれなりに何とかあいつらを片づけようとして手を打った ‐ ところが、あいつらは気まぐれな連中でね、はっきりした理由もなしに、こっちへついたり、あっちへついたりして戦いやがる。やつらには魂もなく、本当の意味での存在もないんだ。』
 『それなら、われわれを傷つけることもできぬはずではないか!』
 哄笑はつづいた。
 『そのとおりだ、論理的には、やつらはおれたちを傷つけることができないはずなんだ』ジャリーは平静な口調で答えた。『だが、おれは“できる”んじゃないかと思う』
 ぴょんぴょんと跳びはねる怪生物が十体ほど、彫像のような戦士の列の間を縫って、コルムたちの戦車に近づいてきた。
 しかも、怪生物たちは歌っていた。
 『ザートのカーマナルはご馳走を食べる前に必ず歌うんだ』と、ジャリーは仲間たちに告げた。『いつもだ』