出来損ないたちの讃歌2:秩序教授の実験 Experiment of Professor Axiom

 ストレスが溜まっているとシナリオ・ネタが思い浮かぶのは業なのか…

 深夜、街路に突然爆音が轟く。きな臭いにおい、そして何かが燃える臭い、熱風、爆音、そして魔獣のあげる甲高い鳴き声。さらに轟音。悲鳴、何かが崩れる音、断末魔の叫び…
 突然の出来事だった。冒険を終え、拠点である街に戻り自宅でゆったりと過ごしていたところ、寝入り端を襲われたあなたは何が起きているかを把握することすら困難だった。しかし長年培った冒険者としての勘はあなたを正しく導いた。あなたは旅の間に用いるいつもの装具とそうは多くない財産の入った袋を掴むと床に作られた落とし戸を跳ね上げ中に飛び込んだ。落とし戸の下は食料庫だ。ひんやりとした空気にたまねぎや酢漬けの臭いが混リあなたの呼吸を詰まらせる。あなたは体を調べ、傷ひとつ無いことを確認すると外を確認しようと耳を澄ます。
 振動が続く。何か重い物が、おそらく大型か超大型なクリーチャーが這いずり回っているのだ。断続的に風が打ちつける音もする。有翼のクリーチャーがいるようだ。ドラゴンだろうか? しかも複数だ。
 街を襲った勢力は念入りに準備をしたのだろう。ここは聖カスバート神殿が治める門前町だ。パラディンやテンプラーに護られた街は容易には落とせない。
 しかし彼らの大半は今はいない。王の招請により隣国国境まで遠征に赴いているのだ。
 偶然でないとしたらたいした情報収集能力だ。国境で紛議が持ち上がったのは半月前。王の招請が来たのは三日前。
 たった三日でこの襲撃を計画できるものがいたのだろうか? あなたは姿のない襲撃者の計画性に感服した。
 いずれにせよ今できる事は何もない。いま残っている守備隊だけでは敵の侵攻を押しとどめる事すらできないだろう。それに仲間が脇を固めているならともかく、単身出て行ったら各個撃破されるだけだ。
 結論:現時点での出撃は自殺行為だ。
 あなたは固い荷物の隙間に落ち着けるスペースを作ると不安な眠りに落ちて行った。出入口が瓦礫の山に埋もれてしまわないことを祈りつつ…

 翌朝、あなたは首尾よく生きて起き上がると耳を澄ませた。外は静かなようだ。襲撃者は夜間のうちに立ち去ったのだろう。ひょっとして、街は襲撃者の占領下にあるのかもしれないが、ここにじっとしているわけにも行くまい。脱出するにせよ抵抗活動を行うにせよここを出なくては始まらない。
 あなたは地上階に出た。幸運な事に家は残っていた。窓は砕け散っていたが、この物が燃えた焦げ臭いにおいを考えれば幸運といえるだろう。
 周囲を見回す。ひどいものだ。街は広範囲にわたり破壊されていた。襲撃者はかなりの戦力を持ってきたのだろう。聖カスバートの神殿は半壊している。そして襲撃者の姿はなかった。
 あなたは神殿の方に歩き出した。いずれにせよ情報を集めなくては話にならない。人々は神殿周囲の広場に集まっているようだ。


 広場は避難民でごった返していた。家を壊された人々に対して神殿が炊き出しを行っているのだ。自前の建物が壊されても奉仕活動を行う聖カスバート僧の胆力は見上げたものだ。まるでそれ以外の行動を知らないかのように見える。
 炊き出しの列に並んだ後、あなたは仲間と合流した。どうやらみんな生きているようだ。さすが百戦錬磨の冒険者だ。自分が生き延びる能力だけは無駄に高い。

 しばらくすると神殿の僧侶(たしか厨房を仕切る若い坊主だ)が即席の壇上に上がって演説を始めた。
 曰く神殿に納められていた秘宝がそれを守護する巫女とともに強奪されたらしい。つまり昨夜の襲撃はこれが目的だったわけだ。戦力低下時を狙うとはセオリー通りだ。面白みはないが見事といえる。
 だがそんな事を考えている場合ではない。僧侶によると神殿の兵士は壊滅状態なため、有志を募りたいということらしい。
 僧侶は高額な報酬を挙げているがあなたの耳には入っていなかった。あなたは即座に名乗り出た。仲間も同様だ。
 他に生き残った五体満足な冒険者はいないらしい。ほとんどの者は昨夜の襲撃に対して討って出て、神殿の警護者たちと共に玉砕したのだろう。
 件の僧侶は苦い顔をしながらもあなたと仲間に秘宝奪還を依頼した。
 思えば聖カスバート神殿の依頼を受けるのは初めてだ。いままでこの僧侶たちはあなたたちパーティに見向きもしなかったからだ。


 あなたたちは神殿の僧侶にこう呼ばれていたのだから… 要らない子と…


 あなたたちは襲撃者に奪われたアーティファクトを奪い返さなくてはならない。
 必要なことはまず情報収集、襲撃者の根拠地の発見、追跡、潜入、そしてあなたたちが得意とする手段による奪還である。